
こんにちは、ぐるなび技術戦略室CCoEグループの西川です。
私たちのグループでは、社内のクラウド活用推進と、次世代を担うエンジニアの育成をミッションとしています。今回は、配属半年後の新卒エンジニアを対象に実施した1日完結のフォローアップ研修「生成AI活用AWS自走型ハンズオン」の全貌をレポートします。
本研修の最大のブレイクスルーは、自社開発のAWSナレッジ生成AIツール「くもなび」を専属メンターとして導入し、受講者の「自走力」を強制的に、かつ安全に限界突破させた点にあります。エンジニア組織のスキルアップに課題を抱える皆様に、明日から使える育成のヒントとして、具体的なタイムラインやプロンプトの進化の過程を惜しみなく公開します。
1. 研修の背景:「資格は取った。でもコンソール画面で手が止まる」
エンジニア育成の現場で、こんな光景に直面したことはないでしょうか?
「新卒エンジニアにAWS認定資格(SAA等)は取らせた。なのに、いざ実務となると手が動かない。自信がない……」
2025年6月、私たちは新卒エンジニア向けに基礎研修を実施し、全員がCLF・SAAの取得に成功しました。しかし、配属後に直面したのは、「資格という点」と「実務という面」を隔てる想像以上の深い溝でした。
- 「構成図の理論は分かる。しかし、実際のAWSコンソールを開くと設定項目が多すぎてフリーズしてしまう」
- 「資格=即戦力ではない。実務レベルへ到達するには、自らコンソールを触り、エラーと格闘する『構築の絶対的な経験値』が必要だ」
資格取得はあくまで入場券に過ぎません。現場のビジネス要件への解像度が上がり始める「配属半年後」こそが、知識を「実務で使える強力な武器」へと錬成する最適なタイミングです。そう確信し、今回の超・実践型研修を始動させました。

2. 研修実施までのタイムライン
本研修は、単なる思いつきではなく、現場の課題を解決するソリューションとして以下のステップで戦略的に構築しました。
| 時期 | フェーズ | 実施内容 |
|---|---|---|
| 2025年6月 | 基礎研修 | 1ヶ月間の集中学習。全員がCLF・SAAを取得 |
| 2025年7月 | 本配属 | 新卒エンジニアが所属するグループへの本配属 |
| 2025年11月 | 研修の検討・決定 | 「コンソールで構築できない」という現場のペインを受け、フォローアップ研修を立案 |
| 2025年12月 | 現場アンケート | 配属先マネージャーへヒアリングを実施し、実務に直結する生々しいテーマを抽出 |
| 2026年1月 | 生成AI活用ハンズオン実施 | 配属半年後の絶好のタイミングで、1日完結のブートキャンプを実施 |

準備フェーズ:圧倒的な自走を引き出す「3つの仕掛け」
「用意された手順書をなぞるだけ」の研修は、思考停止を生むだけです。実務のリアルを再現するため、私たちは3つの強力な仕掛けを用意しました。
① 現場マネージャーからの「リアル課題の抽出」
研修テーマを「ただの練習」で終わらせないため、配属先のマネージャーへ以下の調査を行いました。
- 今、新卒エンジニアの技術的なボトルネックになっているAWSサービスは何か?
- 今後、彼らにどんな技術スタックを任せたいか?(来期のリアルなアサイン想定)
② AI専属メンター「くもなび」の導入
先輩エンジニアが手取り足取り教える体制は捨てました。その代わり、「生成AIと壁打ちして自己解決する」ことを絶対のルールとしました。ここで活用したのが、AWS Knowledge MCP Server を組み込んだ自社専用ツール「くもなび」です。公式ドキュメントに基づいた正確なヒントをセキュアに引き出せる、最強の壁打ち環境を構築しました。

※「くもなび」の革新的な機能については、こちらの記事もご覧ください
CCoEが挑む「AWSナレッジ共有の壁」──AWS Knowledge MCP Server × Amazon Bedrockで実現した新しい情報アクセス環境
③ あえて「答え」を奪う、余白だらけの成果物定義
詳細な手順書は一切廃止し、提供したのは純粋なビジネス要件のみです。
【今回の成果物(お題)の例】
「API Gateway、Lambda、DynamoDBを使用して、サーバーレスな『データ管理用のCRUD API』を構築してください。店舗情報の登録・参照・更新・削除ができる状態をゴールとします。」
3. いざ実践!AIとの共創で「自走力」が覚醒する1日

研修当日のタイムラインと基本ルールは以下の通りです。スケジュールを細分化し、各フェーズで到達すべきマイルストーンを明確に定義しました。
研修当日のタイムライン(1Day)
| 実施内容 | 教育担当のスタンス |
|---|---|
| ①オリエンテーション・課題発表 機密情報の入力禁止など「くもなび」の運用ルール説明と、成果物要件の共有 |
徹底したルール浸透とモチベーションセット |
| ②要件の読み解き・アーキテクチャ検討 提示された要件から必要な構成を考え、AIを使って実装アプローチを策定 |
徹底した「見守り」。安易に答えず、AIへの最適な問いかけ方をコーチングするのみ |
| ③構築・トラブルシューティング コンソールやIaCを用いた環境構築。エラー発生時はAIを駆使して自己解決 |
15分以上スタックした場合のみ、最小限のヒントを投下してブレイクスルーを促す |
| ④テスト実施・ドキュメント作成 事前に配布したテストケースに沿った機能テストと、レビュー用ドキュメントの作成 |
実務水準の品質基準(テストケースの網羅性など)を厳格にチェック |
| ⑤成果発表会 完成した構成と、AIとの壁打ちで得たインサイトをプレゼン |
全体講評と、明日からの実案件へどう接続するかのフィードバック |
実務を再現する「5つの絶対ルール」
研修は完全オンライン。受講者が「自ら正解を導き出す」ためのフレームワークとして、以下のルールを敷きました。
- AI First(15分ルール): エラーが出たら、まずは15分間「くもなび」と対話し、自己解決を目指す
- セキュリティの徹底: プロンプトに機密情報は絶対に入力しない
- 品質の担保: 動作確認だけでなく、テストケースに沿った機能テストを完遂する
- ナレッジの資産化: 第三者が確実に再現できるレビュー用ドキュメントを作成する
- ブラックボックス化の禁止: AIが生成したコードは、自らの言葉でロジックを説明できるレベルまで解像度を上げる
プロンプトの劇的な進化:丸投げから「コンテキストエンジニアリング」へ
最初はエラー文をそのまま貼り付けるだけだった受講者たちも、行き詰まるプロセスを経て、AIから正確な解決策を引き出す術を自ら編み出していきました。
❌ 最初の頃(丸投げプロンプト)
「Lambdaでエラーが出ました。どうすれば直りますか?」
⭕ 数時間後(コンテキストを付与したプロンプト)
「LambdaからDynamoDBへデータをPutItemしようとしたところ、CloudWatchログに AccessDeniedException が出ました。最小権限の原則に沿って、DynamoDBへの書き込み権限だけを現在のIAMロールに追加するJSONポリシーを出力して解説してください。」
このプロンプトの進化こそが、最大の成果です。結果として、受講者全員が時間内に「API Gateway、Lambda、DynamoDBを使用したサーバーレスなデータ管理用のCRUD API」や、「CDKを活用したCloudFrontとS3によるセキュアな静的コンテンツ配信基盤」を、自らの手で組み上げました。
サーバーレスなデータ管理用のCRUD APIの構成図

AIとの対話を通して仮説検証を高速で回し、自ら突破口を開いていく。これこそが、私たちがデザインした「次世代の自走」の形です。
1日の終わりに生まれた「圧倒的な成果」
驚くべきことに、受講者全員が自力でエラーを乗り越え、要件を満たした「実動するアプリケーション」を時間内に完成させました。
機能テストの実施、レビュー用ドキュメントの作成に至るまで、誰一人リタイアすることなく完遂。座学では絶対に得られない、「ゼロからAWSアーキテクチャを具現化し、動かした」という強烈な成功体験が、彼らのエンジニアとしての視座を一段上のレベルへ押し上げました。
4. 実施結果:現場マネージャーからの「熱狂的な支持」
受講者アンケートの総合満足度は100%(大変満足)。しかし、それ以上にインパクトがあったのは現場のマネージャー陣からの反響でした。
【受講者(新卒エンジニア)のリアルな声】
- 「コードをコピペするのではなく、AIにロジックを解説させながら進めることで、圧倒的なスピードで理解が深まった」
- 「エラー解決のアプローチ(AIとの壁打ちのコツ)を掴んだことで、明日からの実務でも絶対に自分で解決できるという確信を持てた」
【配属先マネージャーからの反響】 提出物の共有と報告を行った結果、私たちの想定を遥かに超える熱烈なフィードバックが寄せられました。
- 「研修直後から、実案件のアーキテクチャ検討における会話の解像度が劇的に上がり、完全に共通言語で話せるようになった」
- 「来期の案件を見据えたPoCテーマを設定したことで、研修の成果がそのままチームの技術力底上げという『実益』に直結している」
- 「この育成手法は革命的だ。新卒エンジニアだけでなく、クラウド経験の浅いすべての既存社員向けに、全く同じフレームワークで即座に展開してほしい!」
この声は、今回の研修プログラムが単なる「お勉強」ではなく、組織のビジネス課題を解決する「強力なエンジン」として機能したことを証明しています。
5. 見えてきたAI時代の新たな壁:スピードと「How」のジレンマ
大成功に終わった一方で、次のフェーズへ進むための明確な課題も浮き彫りになりました。マネージャー陣による成果物レビューから、非常に示唆に富むインサイトが得られたのです。
「ドキュメントが『何を確認したか(What)』に留まっており、『どのツールを使い、どう操作したか(How)』の具体性が不足している」
AIを駆使すれば、「動くもの」を作るスピードは爆発的に上がります。しかしその反面、AIが提示した手順を「第三者が確実に再現できる実務レベルのナレッジ」として言語化・資産化するスキルが、開発スピードに追いついていないことが分かりました。これは、AI時代だからこそ直面する新たな壁です。
6. 今後の展望:アジャイルに進化する次世代エンジニアリング教育
この「スピードと品質のジレンマ」という課題を受け、私たちは即座に次回のAWS研修プログラムの大型アップデートを決定しました。
- 「設計フェーズ」の独立と期間拡張: 「とにかく動かす」ことにリソースが偏るのを防ぐため、次回からは研修を2〜3日間のコースへ拡張します。新たに「要件に基づく設計フェーズ」を設け、AIのスピードに流されず「なぜこのアーキテクチャが最適なのか」を深く思考し、定義するプロセスを仕組み化します
- ナレッジ品質の厳格化: 「テスト手順の具体化(Howの記述)」を成果物の必須要件として明確に定義し、レビュー基準を一段階引き上げます。個人の頭の中だけで完結させず、組織の資産として残せるレベルのドキュメント作成能力を鍛え上げます
- 全社展開へのスケール: 現場からの熱狂的な要望に応え、この「AIメンター×現場直結課題」の実践プログラムを、新卒エンジニアの枠を超えて既存社員向けにも順次ロールアウトしていきます

「社内ナレッジAI(くもなび) × 現場直結の課題」というフレームワークは、エンジニアの立ち上がりを劇的に加速させる最適解であることが証明されました。
しかし、私たちはここで立ち止まりません。実証されたこの育成モデルを武器に、組織内のクラウド開発の常識そのものをアップデートし、ビジネス価値を爆速で創出できるエンジニア組織への進化を牽引していきます!
