ぐるなびCTOの岩本です。自社の全プロダクト・サービスにおける技術戦略の責任者としてサービス構築・品質向上に最適な技術の選択、意思決定を行っています。また、在籍するEngineer全体に対して技術的なビジョンを示し、エンジニア組織を牽引しています。
ぐるなび社ではデータの活用を推進しており、その過程で発生する課題に対してどのような対策を講じているかについて、お話しさせていただきました。セミナーには約300名の方々にご参加いただき、盛況のうちに終了しました。今回のブログでは、セッションで使用したスライドの内容に基づき、セッション中にお伝えしきれなかった情報を詳しくご紹介したいと思います。
まず、セッションタイトルは「データの民主化による持続可能なビジネスの成功のためのAI活用」というもので、私たちはこのテーマで登壇しました。
「ぐるなび」を含め、ビジネスの創出と成功にはデータの活用が欠かせません。さらに、データの民主化を実現することで、全社員が自らの業務にデータを活かし、新しいビジネスチャンスを見つけ出す力を持つようになります。データを組織全体で活用する体制を整え、持続的な成長とイノベーションを目指すことが、新たなビジネス創出と成功の鍵となります。
データの力でビジネスを成功に導く:データの民主化が鍵
1. データ活用の重要性
ビジネスの成長や新たな価値の創出において、データの活用は今や不可欠な要素です。極端な言い方をすれば、データがなければサービスの企画自体を行うことが難しい。サービスの開発や改善は、データによって支えられており、顧客のニーズや市場の動向を理解するには正確なデータが必要です。
例えば、過去の顧客データを分析することで、どのようなサービスが求められているのか、何が売り上げに貢献するのかを把握でき、それをもとに新しい戦略を立てることが可能になります。こうした「データドリブン(データ駆動型)」のアプローチを取ることで、成功確率が格段に高まります。
2. データの民主化とは
「データの民主化」とは、組織内のすべての社員や部署が、自由にデータを活用できる環境を指します。データの専門家だけでなく、営業や人事など異なる部門のスタッフも、自分たちの業務に必要なデータにアクセスでき、分析や意思決定に役立てる状態を実現することが目標です。
この状態がもたらすのは、組織全体の「データ活用文化」の醸成です。常に最新のデータを全員が利用できるようになると、現場レベルでも迅速な意思決定が可能になり、各部署がデータに基づいたビジネスチャンスを見つけ出せるようになります。
「誰もが」が重要なキーワード
3. データの民主化で生まれるビジネスチャンス
組織全体でデータを活用することで、以下のような具体的なメリットが生まれます:
- 迅速な意思決定:現場レベルで必要なデータを即時に活用し、タイムリーな意思決定が可能になります。
- 部門を超えた連携:各部署が共通のデータを基に戦略を立てることで、部門間の連携が強化されます。
- イノベーションの促進:全社員がデータにアクセスできることで、誰もが新しいアイデアを提案でき、ビジネスのイノベーションが促されます。
データは誰もが業務で利用しており、ExcelやPowerPointといったツールを通じて日常的に扱われていますが、個人や組織内で閉じているデータを横断的に活用する(データの民主化)ことで、一見関係のない部署の業務効率化につながる可能性があります。
4. データ活用の未来を見据えて
今後、ビジネスの世界ではデータの価値がますます高まると予想されるため、企業は単にデータを集めるだけでなく、データの民主化を進めることが重要です。これにより、組織全体が一丸となってデータを活用する体制が整い、新たなビジネスチャンスを創出できる環境が構築されます。
データを「全員のもの」とすることで、経営陣だけでなく現場のスタッフも自ら判断し、行動できるようにすることがゴールであり、こうした企業文化の醸成が未来のビジネス成功の鍵となる可能性があります。
データの民主化が進まない要因とは?
組織が直面する3つの課題
実際には多くの組織でこの取り組みが難航しています。以下は、弊社が抱えるデータの民主化が進まない3つの主要な要因です。
1. 開発言語の違いによる課題
データエンジニアリングとアプリケーション開発では、それぞれ異なる開発言語が使用されており、これがチーム間の連携を難しくしています。
- データエンジニアリング:Python、SQL
- アプリケーション開発:TypeScript、Go、PHP
異なる開発言語により、データエンジニアチームとアプリケーション開発チーム間での協力が困難になり、情報共有が滞るケースが少なくありません。また、データの扱いがワークロードによって異なるため、複雑性が増し、コミュニケーションの断絶が発生しやすくなります。結果として、両チームのコラボレーションが効率的に進まなくなります。
2. 縦割りチーム構成の弊害
多くの企業では、データエンジニアチームとソフトウェア開発チームが異なる部門に属しています。この「縦割り」構造が非効率なコミュニケーションの原因となり、プロジェクトの進行が遅れる要因となっています。
- 目標の共有が難しい:部門ごとに異なる優先順位が存在するため、目指すべき姿やプロジェクトの目的が組織全体に浸透しにくい。
- 開発の初期段階での課題:目的を理解せずに開発が始まることで、後々多くの手戻りが発生するリスクがあります。
このような状況は、意思決定の遅延や無駄な作業を増加させ、最終的にはプロジェクトの品質や成果に悪影響を与えます。
3. データ資産のサイロ化
組織内の各部門が個別にデータを管理し、独自のツールやソリューションを使用している「データサイロ」は、データの民主化を阻む大きな要因です。
- 分散されたデータの非効率:必要なデータが異なる部門に散在するため、データを集めるのに時間がかかり、迅速な意思決定が妨げられます。
- ツールの多様化によるコスト増:各部門が独自のBIツールや分析手法を使用するため、学習コストや運用コストが増大し、全体のコストも膨らみます。
このようなサイロ化された環境では、統一的なデータ分析が難しくなり、分析結果の信頼性も低下する可能性があります。結果として、データの活用が組織全体で滞り、利用者が「使いにくい」と感じる状況を生んでしまいます。
改善するためのアプローチ:持続可能な状態へ
データ民主化の障壁を乗り越えるために
データの民主化を推進するためには、以下のような取り組みが重要です:
- 技術スタック間でのコラボレーション強化:異なるチーム間でも協力しやすい環境を整える。
- クロスファンクションチームの構築:役割横断チームを構築することで、チーム間コミュニケーションを活発化させる
- データ資産の統合:データのサイロを解消し、全社的なデータ活用基盤を整備する。
これらの取り組みを通じて、データの複雑性や部門間の壁を取り払い、全社員がデータを有効活用できる文化を育てていくことが求められます。データを活かせる組織は、ビジネスの成功に向けた大きな一歩を踏み出すことができると考えています。
AI活用が民主化を加速させる鍵になる!?
冒頭でお話しした通り、普段利用しているリアルタイム性の高い生きたデータは、ExcelやPDFといった非構造化データが大半です。これらのデータを構造化し、データベースで検索することは難しく、さらに日々増え続けていくことも課題でした。この課題を画期的に解決したのが生成AIの技術です。この技術により、あらゆるデータを活用できるようになり、これまでデータ分析に距離を感じていた部門の方でも簡単にデータを活用できるようになりました。これは非常に大きな進歩だと考えています。
今までの内容をまとめたのが、以下のスライドです。
ビジネスの成功において データの民主化 は欠かせませんが、その実現にはいくつかの障壁があります。ここでは、主な3つの障害と、それに対してぐるなびがとった具体的なアクションを説明します。
「ぐるなび」で実施したアクション
上記まとめに関して、「ぐるなび」で実際に行ったアクションはこちらになります。
1. クロスファンクションチームとアジャイル開発の導入
- 部門を超えたチーム編成とアジャイル開発のアプローチを導入することで、技術スタックの違いを超えたコラボレーションが促進されました。
- チーム間での会話や情報共有が増え、迅速な対応が可能になりました。
2. データ・ツールの集約化
- サイロ化されたデータを一元管理するために、データとツールを集約する仕組みを整えました。
- これにより、各部門が必要なデータに容易にアクセスできるようになりました。
3. 生成AIの活用による非構造データの活用促進
- 生成AIを活用することで、これまで活用が難しかった非構造データも有効に活用できるようになりました。
- データ分析の専門家でなくても、簡単にデータを活用できる環境が整備され、より多くの社員がデータに基づいた意思決定に参加できるようになりました。
最後に
これらの取り組みを通じて、 持続可能なデータの民主化 を実現するための土台が整ってきたと実感しています。ただ、まだ、実験的に行っているものも多く、今後も各部門が連携を深め、データ活用がさらに進むことを目指していきたいと考えています。