クラウドシフトをキャリアの転機に~ネットワークのプロ集団が既存領域を守りながら「ゼロトラスト」でコーポレートITを変革するまで~

こんにちは、ぐるなびでインフラ(メインはネットワーク)とコーポレートITを担当しているTsushimaです。

商用インフラのクラウド化を転機とし、ネットワークエンジニアの強みを「ゼロトラスト推進」へと展開したマネジメントの意思決定プロセス、既存事業の品質を死守しながら、中途や異動メンバーと融合し、コーポレートITを変革していく泥臭い組織づくりのリアルをお伝えします。

1. はじめに:私たちのミッションと組織の成り立ち

私たちの組織は、元々はミッションクリティカルな商用ネットワークを担う専門のエンジニア集団から始まりました。その後、商用ネットワークと社内ネットワークの兼務を経て、組織再編に伴い新たに「Corporate IT Group」を立ち上げるに至っています。

実は、ぐるなびには以前、独立した「情報システム部」が存在していましたが、組織の状況変化に伴い役割ごとに分割され、各機能が他部署へと移管された経緯があります。 その後、改めて全社のインフラを横断的に支えるコーポレートIT機能の再構築が必要となり、「Corporate IT Group」を新設することになりました。この新組織を立ち上げるにあたり、私たちは配置について少しイレギュラーな選択をしています。

本来、全社横断的な情報システムを担う組織は、再び独立した1つの部門として立ち上げるのがセオリーかと思います。しかし、新設した「Corporate IT Group」は、あえて「開発部」の配下に置きました。

理由は、「実利とスピードの優先」です。当時の状況において、以下のメリットがありました。

  • 変革に必要なリソースや中途採用枠は、開発部配下の方が圧倒的に確保しやすい。
  • 開発部内の最新の技術的取り組みやツールを、容易に取り込める。

対外的には少し役割がわかりづらい配置かもしれませんが、中途採用の面接等ではこの戦略的背景を丁寧に説明し、候補者の方々に深く共感いただいています。

💡 最重要ミッションの死守 もちろん、大前提としてお伝えしたいのは、「商用ネットワークの安定稼働と品質維持は、現在も我々の最重要ミッションである」ということです。ここには一切の妥協はなく、高度な技術力で既存事業のインフラを死守し続けています。その確固たるベースがあるからこそ、私たちは次なる変革へと踏み出すことができました。


2. 環境変化への直面:クラウドシフトとインフラの自走化

近年、商用環境のクラウドシフトが急速に進み、開発者自身でインフラを構築・運用する「自走化」が当たり前になってきました。

もちろん、それは私たちの役割がなくなったことを意味しません。現在、私たちインフラのネットワーク担当は以下のように役割をシフトさせています。

  • CCoE(クラウド管理者)との連携:ガードレール観点で安全なVPC全般の設計を担う。
  • クリティカルなネットワーク運用:全体設計に関わるAmazon VPC関連サービスや、Amazon Route 53、AWS Network Firewallといった重要ネットワーク関連サービスの運用をしっかりと押さえる。

一方で、旧来のような「依頼ベースでの単発のネットワーク設定作業」といった従来の業務が相対的に減少したことは事実です。一般的には「自分たちの仕事が減るピンチ」と捉えられがちな局面ですが、これを「既存のコア業務をより高度な領域へシフトさせつつ、生まれたリソースで新しい領域(コーポレートIT)へ挑戦する絶好のチャンス」と捉えました。


3. マネジメントの決断:強みを活かしたゼロトラスト推進とキャリア育成

私たちが新たな主戦場の一つとして選んだのが、コーポレートIT領域における「ゼロトラストアーキテクチャ推進」です。一見すると畑違いに思えるかもしれませんが、実は我々がこれを牽引することには明確な親和性の高さがありました。具体的には以下の3点です。

  1. 既存の社内インフラへの深い理解 私たちは過去に社内ネットワークも管轄している経緯があり、社内インフラの環境や複雑な構成を既に把握していました。
  2. 高度なネットワーク知見のダイレクトな活用 ゼロトラストアーキテクチャの要となるZTNA(Zero Trust Network Access)をはじめとするネットワークセキュリティ領域は、まさに我々が商用・エンタープライズ環境で培ってきたテクノロジースタックやネットワークの知見がまさに役立った場面でした。
  3. ステークホルダーを巻き込む「組織推進力」 ゼロトラスト化はシステム導入にとどまらず、全社の業務プロセスに影響を与えます。私たちはこれまでの経験から、社内情報システムのアプリケーション担当やPC担当、さらには総務などのコーポレート部門とも直接のチャネルを持っていました。「誰に相談し、どう進めれば組織が動くか」という社内の関係性を把握していたため、部署横断のプロジェクトをグループ一丸となって迅速に推進できたのです。

そして、この意思決定にはもう一つの重要な狙いがありました。それはメンバーに対する「新しい領域への挑戦の後押し」です。商用ネットワークの枠にとどまらず、「セキュリティ」や「コーポレートIT」という未知の領域に挑むことで、インフラエンジニアとしての知見を広げる楽しさや、新たなやりがいを感じてもらうきっかけにしたかったのです。


4. 我々が牽引する「ゼロトラスト構想」の全体像

実は、取り組みを始めた当初、メンバーには「ゼロトラスト」の深い知識はありませんでした。そこで、まずは関連する複数セミナーをメンバー全員で受講するところからスタートしました。

知識のベースラインを揃えることで、単なるシステムの導入ではなく、「アーキテクチャの基本的な考え方」や「To-Beのデザイン」、そして「最終的なゴールイメージ」をグループ全体で共有できたことが、プロジェクトの大きな推進力となりました。

私たちがコーポレートIT領域で実現しようとしているのは、「どこでも、同じ環境で、安全に、効率よく仕事ができる」という、ハイブリッドワーク前提の新しい働き方を支えるためのアーキテクチャの根本的な刷新です。従来の「社内ネットワーク(境界内)は安全である」という前提を捨て、「すべてにおいて確認し、認証・認可を行う」という概念のもと、現在以下の3つの要素を最優先事項として変革を進めています。

🔑 ID統制のモダナイズ(脱ブラックボックス)と確かな実績

これまで長年運用され、有識者の不在等により複雑化・ブラックボックス化していた旧来のID管理システムから脱却し、次世代の統合ID基盤への移行を推進しています。

  • これまでの実績:すでに社内に乱立していたSSO基盤の整理を進め、Microsoft Entra IDを中心とした構成変更と多要素認証(MFA)の導入を実現しました。
  • 今後のミッション:将来的なActive Directoryの廃止も見据えた、極めて影響範囲の大きいミッションに挑んでいきます。

🛡️ 脱VPNとネットワークセキュリティの刷新

脆弱性リスクやトラフィック課題を抱えるレガシーなVPN環境から、Netskopeを活用したZTNA(Zero Trust Network Access)へと移行し、端末や場所を問わずアプリケーション単位で安全なアクセス制御を実現します。

  • これまでの実績:PC環境においてレガシーVPNからNetskope ZTNAへの移行を完了しました。
  • 今後のミッション:その他モバイル端末に対するセキュリティ対策の刷新を完了させ、全デバイスでの安全なアクセス制御体制を確立します。

📱 デバイス統制(MDM)の統合

これまで社内に乱立していた複数のMDM基盤を整理・統合し、ID認証(条件付きアクセス)と連動した柔軟かつ強固なデバイス管理基盤を再構築しています。EDRの本格運用など、エンドポイント保護も強化していきます。


5. チームビルディング:異動と採用による「足りないピース」の補完

とはいえ、ネットワークの知見だけでコーポレートITのすべてが回るわけではありません。デバイス管理、Windows OSといった社内IT特有の不足スキルについては、中途採用や社内異動を積極的に行い、強力な体制を構築しました。

ここでマネジメントとして最も注力したのが、「既存メンバーと新メンバーの融合」、そして「商用と社内の文化の違いを乗り越えること」です。以下の5つの観点で、メンバーと徹底的に対話を重ねました。

  • 今後のキャリアのすり合わせ この変化が個人の成長にどう繋がるかを描く。
  • 業務選択と優先度選定 兼務と専任のバランスを取り、疲弊を防ぐ判断基準を明確化する。
  • SLOと文化の「アンラーニング」 商用の「絶対的安定」と、社内ITの「柔軟性・利便性」という異なるサービスレベルの違いを理解し、頭を切り替える。
  • ユーザーへの「寄り添い」 ITリテラシーが高くない社内ユーザーにも寄り添い、相手のスピード感に合わせてサポートするマインドチェンジ。
  • 新規技術へのモチベーション ゼロトラストという未知の領域への挑戦を、ワクワク感へと変換する。

こうした泥臭い対話とサポートを通じて、バックグラウンドの異なるメンバーが一つにまとまり、強力な推進力を持ってゼロトラスト化を進めています。


6. おわりに:私たちが目指す組織のあり方

私たちは、商用インフラという絶対に落とせない基盤を守り抜きながら、コーポレートITという新しい領域の変革を牽引するハイブリッドな組織です。

技術トレンドの変化を不安に感じるのではなく、むしろキャリアを広げるチャンスと捉え、グループ全員で泥臭く課題を乗り越えていく。私たちはこれからも、そんな新しい挑戦を共に楽しみ、お互いに成長し合える組織でありたいと思っています。

本記事でお伝えした私たちの試行錯誤のリアルが、同じように環境変化の過渡期にあるエンジニアやマネージャーの皆様にとって、少しでも参考になれば幸いです。


2009年にぐるなび入社。ネットワークをメインにインフラ全般や最近はコーポレートITを担当。