社内エンジニアは本質的な価値にフォーカスする。ぐるなび新卒研修のコミュニケーション向上施策とは

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はじめまして、ぐるなびの侍こと開発管理グループのOKANOです。新卒でぐるなびに入社し、2017年4月から9年目に突入しました。

入社直後は主にインフラエンジニアとして、ぐるなび検索ぐるなび特集Let's EnjoyTokyoの開発業務に携わったのち、2015年、現在の部署に異動。技術人事としてエンジニア組織の組織開発・人材開発の企画と実践を担当しています。

技術人事とは

技術人事を立てる企業が増え、たくさんのテック企業が技術人事制を採用。「部門HR」「エンジニア人事」というような名前で、元エンジニアの方を人事にコンバートしているケースがあります。

なぜ部門HRを立てる必要があるのか。そこにはこんな理由があります。

  • 研修制度を決めるにも、非エンジニアがエンジニアに対して何を教えればいいのかわからない
  • 技術のことがわかっていないと、エンジニアを人事評価しにくい(もしくはできない)
  • 夜間メンテや緊急障害対応など、エンジニア特有の労務管理が非エンジニアには理解しにくい
  • 新卒、中途のエンジニア採用において、そのエンジニアがどの程度優秀なのか、非エンジニアには実力が理解しにくい

人事には新卒採用、中途採用、労務管理、組織開発などさまざまな機能がありますが、部門HRとはこのエンジニア特化版。非エンジニアでは業務推進に難がある側面を、元エンジニアの僕のような人間が担当します。目的は、円滑に組織を回すための仕組みづくりです。

ぐるなびを支える「新卒エンジニア研修」の取り組み

評価、労務管理、採用など、語りたいテーマはたくさんありますが、今回は「ぐるなびの研修制度」にフォーカス。その中でも、「新卒エンジニア研修」についてお話したいと思います。

現在の体制になるまで僕たちがトライアンドエラーしてきた内容も含めて紹介しますので、主に、以下のような課題を抱えている人のご参考になれば幸いです。

  • エンジニア研修の担当になって焦っている
  • 毎年新卒研修どうすればいいか悩んでいる

ぐるなびのエンジニア新卒採用

1996年に創業したぐるなびですが、2007年度まで、エンジニアの採用はすべて中途採用。2008年度よりエンジニアの採用が開始しました(正確にいうと、2010年度まではエンジニア採用ではなく、総合職採用の”エンジニア配属”でした)。

新卒エンジニアの規模感

それから、かれこれ10年間で77名の新卒エンジニアがぐるなびにジョインしています。

採用人数
2008年 3名
2009年 6名
2010年 5名
2011年 6名
2012年 5名
2013年 5名
2014年 3名
2015年 14名
2016年 13名
2017年 17名

f:id:g-editor:20170529193732j:plain 写真は2016年入社の技術職新入社員と研修事務局3人(僕は撮影者なので写ってません)

ぐるなびの新卒採用状況

ぐるなびの新卒エンジニア採用では、理系・文系問わず、さまざまな方を採用しています。

たとえば、現在ぐるなびで活躍しているメンバーには、こんなバックグラウンドの人間がいます。

  • 学生時代は旅しかしてこなかった
  • 海外ボランティア・留学など、様々な価値観の人との関わりに全力をそそいできた
  • UnityやAndroid Studioを使用してゲームやアプリの開発をしていた
  • 大学祭実行委員会の活動でイベントの実現に全てをかけていた
  • 人工知能の研究をしていた。学生時代からPythonをバリバリ使いこなしていた

エンジニアとしてのスキルや基礎知識は、新卒入社時に備えているに越したことはありません。しかし、エンジニアリングを専門にやっていなくても、自分で学んでやってきた学生には、その学生なりにそれぞれ頑張ってきたことがあるはず。エンジニアリング以外で培った力を開発の現場で活かす機会はあると考えています。

たとえば以下のようなケースは未経験の学生も活躍できるケースです。

  • 関係者との細やかなコミュニケーションがとれる
  • (制約を乗り越えて)実現を前提に考え成功を目指せる頭のやわらかさ
  • 感覚的な日々の小さなズレを修正し、開発プロセスのコントロール ができる

対して”経験者”の中でも多様なメンバーが揃います。暇があれば勉強会に出かけていく技術大好きな方から、学校の授業でプログラミングをかじったくらいの方までさまざまです。

研修期間のスケジュール

新卒社員には、毎年4月の集合研修(マナーや会社知識を学ぶ)を終えてから、2ヶ月〜3ヶ月の技術研修に参加してもらいます。その後、配属先にてOJT制で新卒育成をおこないます。OJT期間を含めると、ぐるなびでは1年間の研修期間を設けています。

OJT制に関する取り組みはおいおい記事にできればと思いますが、「OJT担当をアサインして育成丸投げ」にはしないように気をつけたいと考えています。

ぐるなびの技術研修内容

技術研修のカリキュラム

2017年度現在、新卒向けのカリキュラムは以下となっています。

  • Web基礎(HTML,CSS,JavaScript)
  • プログラミング言語基礎(主にPHP)
  • DB基礎(主にMySQL)
  • 言語応用(フレームワークの解説と基本的な使い方紹介)
  • Linux基礎(主にCentOS)
  • 総復習の個人演習(基礎講座の演習復習、Web在庫管理的システムの作成)

ここまでを約1ヶ月かけてインプットしています。基礎はとても大切です。エンジニアの地頭力として財産にしてもらうことを願ってみっちりやっています。

経験者と未経験者では飲み込みのスピードに差がでるため教え合いをしてもらいながら全体的なレベルアップを図りました。経験者と未経験者の差を埋めることと、経験者側の確かな落としこみをすることが目的です。

f:id:g-editor:20170529193757j:plain 研修の風景。同期同士での情報交換も活発に行われていました

f:id:g-editor:20170529193838j:plain 研修内容を落とし込んでもらうため、メンターからの追加講義風景。(理解できているメンバーも含め)希望者続出でした

その後チームを分けて2度の仮想プロジェクトに取り組んでもらいます。仮想プロジェクトとは事務局から提示するテーマにしたがって、プロダクトの企画から実装・リリースまでの一連の流れに沿って開発するカリキュラムです。

この仮想プロジェクトの最後には社内エンジニア全員に向けたプレゼンテーションがあり、この後、本配属する流れです。仮想プロジェクトを実施する理由は、ひとつのプロジェクトを最後までやり抜く経験を得てもらうため。研修を受ける新卒が自分自身の長所などを見つめ直す機会になればいいなと考えています。

f:id:g-editor:20170529193932j:plain 最終発表直前の風景。用意していた席数が埋まって立ち見も出ました。

技術研修自体はアウトソース

そんな技術研修ですが、2008年より2年間は社内のエンジニアが持ち回りで新卒社員に教えていたものの、2010年度より技術研修をアウトソースすることにしました。

アウトソースを始めた理由はいろいろあったのでしょうが、社内エンジニアに任せたほうが良い部分とアウトソースしたほうが良い部分があると考えた結果です。

とはいえ、社内エンジニアがまったく新卒研修にタッチしていないわけではありません。

ぐるなびでは、エンジニア同士のコミュニケーションが活性化する事で組織のアウトプットの質があがることが本質的な価値だと考えています。社内エンジニアがタッチするのはコミュニケーション面。のちほど取り上げますが、基礎研修はアウトソース、コミュニケーション研修は社内エンジニアで回しています。

技術の基礎研修をアウトソースすることについて

研修をメイン事業にしているベンダー様には、エンジニア導入研修として、何年もかけて研修のPDCAをまわしてきたナレッジがあります。人材育成に正解はありません。しかし、研修企画未経験者が手探りで作った基礎研修と比べ、着実にプロとしてKPTをまわしているベンダーカリキュラムは堅実です。

社内エンジニアとはコミュニケーション醸成体制の確立に力を入れる

ぐるなびでは、コミュニケーション醸成のための体制確立を、社内の先輩エンジニアにお願いしています。

先輩エンジニアが力をかける本質的な価値は、技術の基礎研修ではなく、コミュニケーションだと考えているからです。

僕が担当になった2016年度から、新卒社員とのコミュニケーションには、今まで以上に力を割いてもらうようにしました。配属後には毎日顔をあわせますし、ともに業務をこなしていく必要もあります。配属前の段階で、できるだけ接点を持てるような施策をおこなっています。

■新卒エンジニアと社内エンジニアの接点増加施策

  • メンターの人数を6倍にする(前年比)
  • 先輩2名と1on2面談の実施
  • 50名前後で懇親会を実施
  • 新卒社員が希望するチームとのランチ機会を設定
  • 先輩エンジニアの働く環境見学

なかでも1on2面談は、先輩が担当している案件の話を伝える場として、研修で学んでいる技術がどのように現場で活かされているのかなどを伝える場としても活かされたように思います。

f:id:g-editor:20170921122430j:plain 懇親会の様子。新卒社員と先輩社員たちの交流の場となりました

■社内エンジニアのコミュニケーション強化施策

  • (新卒入社前)コーチング研修の実施
  • コミュニケーション本輪読会
  • 週次定例での振り返り会
  • アンケートの取得

この中から、特に効果があったと思われる項目について、どのようなことを行った結果、何が改善されたのか。詳しく見ていきたいと思います。

先輩2名と1on2面談の実施

コーチング研修(詳細は後述します)を受講した先輩社員が2名体制で1人の新卒と毎朝15分面談を行いました。テーマは基本的にフリーですが、主に不安なことやカリキュラム上で困っていることなどが話題にあがっていました。

これによって、新卒社員の社内交友関係が飛躍的に広がりました。別の部署の先輩であっても、ちょっとした休憩に「元気(ですか)?」といった声をかけあえるような関係が構築できました。

新卒社員が希望するチームとのランチ機会を設定

20名(新卒の1.5倍程度)前後の先輩エンジニアがメンターとして密接に関わっています。目指したのは更に広範囲の先輩と接点をもってもらうこと。 そのためにランチ機会を設定しました。普段の面談で話している先輩が日ごろどういった組織で働いているのか、ランチを共にすることで確認できます。先輩側にとっても、どんな新卒社員が入社しているのか分かり好評でした。

コミュニケーション本輪読会

輪読会の開催によって、先輩エンジニア同士の関係構築がすすみました。本の内容を踏まえたアウトプットの一例として次のような声が挙がっていました。

  • 相手の将来を意識してそれを実現する方法を考えていきたい
  • 話しやすい雰囲気作りが重要。たとえばMTG等に出席して人に紹介する など
  • 育て上手な先輩は言わずに聞く
  • 雑談ベースのコミュニケーションを日頃からおこなう。話しかけやすいオーラを意識する

輪読会で使用した本は『問いかける技術――確かな人間関係と優れた組織をつくる(著:エドガー・H・シャイン/監修:金井 壽宏/翻訳:原賀 真紀子/英治出版)』と『「経験学習」入門(著:松尾 睦/ダイヤモンド社)』です。

f:id:g-editor:20170529194038j:plain 輪読会の様子。テーマとなっている本を読んでもらい、思ったことをシェアする場としていました

週次定例での振り返り会

また、週次定例での振り返り会では、新卒社員の状況を共有し、今後のフォロー体制や、個々にあったサポート方法などについて話し合いをしました。 これまでの研修ではメンターがこういった定例会の場に参加することは多くありませんでした。メンターの皆さんには深く携わってもらったことで、状況のヒアリングなどの施策を行動に移すのが円滑になりました。

コーチング研修の実施

聴く、認める、質問する。といったコーチングテクニックを学びます。その後、ひたすらロールプレイングを何回も行うことで落とし込んでもらいました。 コミュニケーションの練習は、「初めての後輩」を持つことになる人に大変好評でした。これからどのように対応すればよいのか参考にしてもらう機会になりました。

f:id:g-editor:20170529194019j:plain コーチング研修の様子。ロールプレイをふんだんに取り入れ、”練習”の場を作りました

コミュニケーションを大切にする研修の振り返り

コミュニケーションを重要視しはじめたのにはキッカケがあります。

ぐるなび社員全体に共通する特徴として、「いい人」なんだけど相手に気を遣いすぎる、ということが挙げられます。

研修内容を改善する前は、ぐるなびの社風とも言うべき「気遣い」が、研修担当でないエンジニアの多くに蔓延。「新卒の時はインプット量も多いし、技術研修だけでもいっぱいいっぱいのはず。話しかけたり邪魔しちゃいけないな」と思っている雰囲気が醸成されていたようです。

その結果、5-6名の研修関係者だけが新卒とコミュニケーションをとっているような状況に。そこで、

  • 研修期間中に関係性を築かずに現場に配属する
  • ある程度仲良くなっていて、且つ見える範囲にたくさん知り合い(先輩社員)がいる状況で現場に配属する

この二つの状態を考えてみました。どちらの方が新卒社員がスタートダッシュを切りやすいか。当然後者でした。

そして、配属後すぐの2016年7月には新卒社員とメンターを務めた先輩エンジニアに研修についてヒアリングを実施。結果は以下でした。

メンター側からの声

<良かったポイント>

  • 事前にコミュニケーション研修をおこなったことでどのように新卒社員と交流を持てば良いかわかった
  • メンター同士で交流でき、かつ刺激し合えた
  • 新卒の抱える悩みをヒアリングできた

<改善したいポイント>

  • 想定していたよりも工数を必要とした

新卒社員からの声

<良かったポイント>

  • 部門に広く知り合いを作れた
  • 少しでも不安に思っていることを面談で相談できた
  • 面談で先輩方の人柄や雰囲気を知ることができた
  • 追加講義で、研修で学んだ内容の知識を補強できた

<改善したいポイント>

  • 面談頻度が多いと話す内容が無くなる

おおむね好評だったため、良かったポイントは2017年の新卒研修にも活かしました。

一方、改善点としてあがった以下2点は、次の施策を実施しました。

メンターにより詳細な目的説明をした

研修のカリキュラムを組む際、新卒社員と先輩エンジニアの関係性を構築するために必要な工数は確保しながらも、過剰に時間を割いてもらうことにならないよう注意していました。しかし、事前に、研修に必要な情報や工数の共有が不十分であったと反省。そこでおこなったのは、新卒研修に携わることに意義を持ってもらうための研修の目的や意味の共有です。また、事前に研修にかかる工数について説明しました。

面接の頻度を減らした

2016年度の研修では週5日で実施していた面談ですが、それでは回数が多く「ネタに困るケースもある」との声をうけて2017年の研修では週に2日(水金)の朝一人あたり15分での実施に変更しました。

体制と研修内容の決め方

ぐるなびは今年で創業21年目。エンジニア組織開発、エンジニア採用も試行錯誤の歴史を経てきました。

最後に、ぐるなびがどのような変遷で研修内容を変化させてきたのか、ということにも触れておきましょう。

僕が研修業務にかかわり始めたのは2015年の秋。

2015年度の技術研修では複数のマネジャーが通常業務を掛け持ちしながら育成プランを検討していました。主導していたマネジャーと引き継ぎの話をたくさんしましたが、兼任には無理があり、負荷も大きすぎる。専任担当者を付けるべきではないか、と感じていました。

そこで2016年度からは、複数マネジャーが通常業務を掛け持ちしながら研修カリキュラムなどを計画・実行するのをやめ、専任の研修担当者を配置することになりました。その担当となったのが僕でした。

この研修に関する業務だけをしていたわけではないので”専任”はさすがに言い過ぎかもしれません。が、メインミッションとして携われたことはとても大きかったと思います。プロダクトのリリースが迫ってきたり、システム障害対応などの不測の事態に追われたりといった、可及的速やかに対応しなければいけない問題を担当しなくなったからです。

とはいえ、研修は一人で運営できるものではありません。一人では視点が偏ります。研修企画において視点の偏りは重大な欠陥につながります。 たとえば、演習で使用するエディタの選定をどうしようか?と考える際、仮に僕がVim教の信者であればそれを使ってもらう事をベースに考えてしまいます(暗黙の了解というか、疑いなく他の選択肢を捨て去ってしまいかねません)。

そこで「新卒エンジニア研修事務局」を編成させてもらいました。エンジニアの視点を持つ現場のマネジャーを1名、メンバーを2名に私を加えた4人チームです。

事務局では以下のトピックなどを10月から3月にかけて議論しました。

  • 過去の研修内容と反省(10月~12月)
  • 今後開発部門が向かう方向性のすり合わせ(12月~1月)
  • 入社する新卒のタイプやスキルのレベル(1月~3月) など

その中でカリキュラムの草案を制作し「自走型エンジニアの育成」というテーマを掲げました。続いて、何社かの研修ベンダーさんともお話させていただき、その中から最終的な1社にお願いすることにしました。

この事務局の結論を上司に提案し合意を得て、実際に運用し始めました。

まとめ

ぐるなびの新卒エンジニア研修で大切にしているのは、「基礎力をつけてもらう」ことや「仕事の進め方を学んでもらう」こと。そして、「エンジニアリングって楽しい。仕事にしてよかった!」と思ってもらえることを考えて計画しています。 そのためには、活発な組織である必要があります。組織の土台にはコミュニケーションが必須だと考えています。

せっかく興味を持って入社いただいたので、楽しさなどを見つけてもらいながら活躍できるようサポートするのがぐるなび新卒エンジニアの研修です。


お知らせ
ぐるなびでは19卒対象のエンジニア・デザイナー向け会社説明会参加者を募集しています。



OKANO
関西で大学を卒業し、'09に新卒でぐるなびに入社、上京。入社後の6年半はエンジニア(主にインフラ)としてぐるなび各種サービス、Let's Enjoytokyoの運用に携わる。
現在は開発部門に特化したHRとして、エンジニアにまつわる人事課題へチャレンジしている。座右の銘は「まじめは武器」。